デビッド・ボウイ「ロックンロールの自殺者」

1213日は、杉山登志さんの命日である。
今年の
828日、テレビCMの日を記念して放映された
ドラマ“メッセージ”でも取り上げられた、
伝説の
CMディレクターだ。

1966年生まれの僕は、
たぶんリアルタイムで杉山さんの作品を体験できた最後の世代だろう。
なかでも印象に残っているのが、
亡くなった
1973年にOAされた
資生堂“シフォネット・パウダーアイシャドウ”の
CMだ。


静かな午後の図書館。
少年が窓際で本を読んでいるひとりの女性に見入っている。
この視線に気づいた女性は、少年を見る。
女性の目を見て、ドギマギする少年。
そしてそんな少年を見てニッコリと微笑む、その女性。


この
CMには「影も形も明るくなりましたね。目」というコピーがつけられていたが、
正直いってどうでもいいコピーである。
この
CMのすごさは、
魅了した側の人間と魅了された側の人間の心の動きを、
言葉を介さず目だけでやりとりしている点だと思う。

とび抜けてすぐれた広告ビジュアルは、
時として言葉=コピーを不要にする。
この
CMはその最たるものだと思う。

このCMに出ていた女性の名は知らないが、
少年は佐藤祐介という人気者だった。
僕の記憶違いでなければ、
女性差別だ
!!とウーマンリブ団体からクレームがつけられた
某インスタントラーメンの「私つくる人。僕食べる人」という
CM
彼が出演していたと思う。

閑話休題。
この杉山さんの作品は広告界最高の祭典である
“カンヌ広告映画祭”で銅賞を受賞した。
この
10年前、杉山さんは同じ資生堂“ファッションベイル”のCMで銀賞を受賞している。
日本人がはじめてカンヌで賞を受けた作品だ。

それから
10年間、
杉山さんは
CMディレクターの第一人者として、
まさに命を削るようにして
CMをつくり続けてきた。


そして、あの有名な遺書を残し、この世を去った。


 リッチでないのに

リッチな世界などわかりません

ハッピーでないのに

ハッピーな世界などえがけません

「夢」がないのに

「夢」をうることなどは・・・とても

嘘をついてもばれるものです


1973
年といえば、デビッド・ボウイが自らつくり上げた
ジギー・スターダストというキャラクターを葬り去った年でもある。
この年、初来日公演を成功させたデビッド・ボウイは
73日、ロンドンはハマースミス・オデオンで
ジギー・スターダストとしての最後のコンサートを行った。
そのコンサートのラストナンバーが、
『ロックンロールの自殺者』という曲である。

このコンサートの模様を収めたライブ盤が発売されると知ったのは、
1983年の12月であった。
僕はその記事を渋谷の喫茶店で、読んだことをはっきりと憶えている。


以来、僕は何度も人生において失敗したり、
挫折したり、絶望したりしながら生きてきた。
自殺を考えたことだって一度や二度ではない。
けれど、いまこうして生きている。

リッチでないのにリッチな世界などわかりません。
この気持ちもわからなくもない。
でもいまの僕は、「リッチでなくても、ハッピーでいこう」と考えている。


20
代半ばで“You’re a rock’n roll suicide”と歌っていたデビッド・ボウイも、
きっと苦しんだり、挫折感や絶望感を覚えたりしながら、
めまぐるしい時の流れのなかを生き抜いてきたのだ。

そして来年は還暦を迎える。

『ロックンロールの自殺者』の最後は、
次のようなフレーズでドラマティックなエンディングを迎える。

 
 あなたが僕と一緒にいることに気づけば

 あなたは独りぼっちじゃなくなる

 さあ、僕とはじめよう

 あなたは独りなんかじゃない

 ()

僕に手をさしのばしてくれ

 だって、あなたは素晴らしい

 さあ、僕に手をさしのばして


今から
8年半前、僕の幼なじみが
奥さんと生後
6か月の長男をのこして自殺した。

自殺がいいとか、悪いとかということをいう権利は僕にはない。
でも、死ぬことなんか、いつだってできる。
明日死んでもいいから、とりあえず今日は生きてみよう。
そんな考え方も、ありなんじゃないかな。
心からそう思う。


《追記》

一説には杉山さんの命日は1212日らしいのだが、
僕はずっと
13日と憶えていたので、13日と表記させていただいた。
ご了承ください。


2006.12