ジャニス・イアン「ウィル・ユー・ダンス」

ドラマといえば、
かつて
TBSは「ドラマのTBS」といわれていた。
特に金曜日の夜
10時からの枠は、
名作ドラマの宝庫である。

僕はテレビ朝日で放送されていた
“必殺シリーズ”の大ファンだったので、
TBSで観たいドラマがあると、
それはそれは困ったものだった。

僕が学生の頃は、
いまのように家庭で簡単に
テレビ番組を録画できるような時代ではなかったのだ。


TBS
の夜10時のドラマで、
なにがなんでももう一度観たいと思うのが、
“岸辺のアルバム”である。

多摩川沿いの一軒家に住む平凡な
4人家族。
会社人間の夫役に杉浦直樹氏、その妻に八千草薫さん、
そして中田喜子が長女を、国広富之が弟を演じたこのドラマは、
いまなお不朽の名作として語り継がれている。

個人的にも多摩川には想い出がたくさんある。
多摩川の景色は、わが原風景のひとつだ。
先日、久々に東急田園都市線に乗って多摩川を渡ったのだが、
思わず身を乗り出してその景色に見入ってしまった。

その多摩川が台風によって氾濫し、
堤防が決壊したのは
1974年の9月のことであった。
狛江市にある堤防沿いの住宅が濁流に流されていくニュース映像は、
少年の目にも衝撃的であった。

“岸辺のアルバム”ではこの映像をオープニングに使用した。
いわばドラマの結末が
放送第
1回目のオープニングからわかってしまうという
実に掟やぶりな手法を用いたのである。

ゴォーっという濁流の轟音、
そして流されていく家屋の映像に続きオープニングで流れていたのが、
ジャニス・イアンの『ウィル・ユー・ダンス』である。

何年か前、
山口智子が出演したお茶の
CMでも使われたが、
多くの人はこの曲を聴くと
“岸辺のアルバム”を思い浮かべるのではないだろうか?

ドラマは妻の浮気、娘の妊娠、息子の家出、
夫の会社での不正行為によりバラバラになってしまった家族が、
濁流に流されようとしているわが家から
家族の想い出がいっぱいつまったアルバムを取りに行くというシーンで
クライマックスを迎える。

僕は、アルバムを一冊も持っていない。
以前は持っていたのだが、捨てたのだ。
子どもの頃からの写真が貼られたアルバムはおろか、
学生時代の卒業アルバムも全部捨てた。

なので、少なくとも僕の手元には過去の写真というものが
1枚もない。

なんてことを!!と思われる方もいると思うが、
僕は僕なりに信念をもって捨てたのだ。

それによってナニかがスッキリし、
自己再生をはかれた部分がある。
だから僕は、何ひとつ後悔していない。

アルバムはなくなったが、想い出まではなくならない。
それにまだまだ
41歳! 
これからだってアルバムはいっぱいつくれる。

そして一人でも多くの人に、
僕から素敵な想い出をあげられたらいいな、
なんて思っている春の朝である。


2007.03