南こうせつ「オハイオの月」
先週の土曜日、よく行く神保町の中古レコード屋さんで
南こうせつのLPを買ってきた。
値段は100円である。
このLPは僕が中学生のころ、おこづかいをためて買ったのだが、
そのときはまさか後に100円でLPが買えるなどとは思っていなかった。
「100円でポテトチップスは買えますが、
ポテトチップスで100円は買えません。あしからず」というのは、
僕が小学生のころにOAされた藤谷美和子出演によるカルビーのCMコピーだが、
当時はシングル盤でさえたしか500円〜600円だったと思う。
当時の僕にとってレコードはまさに高額商品であった。
南こうせつといえば、
やはり『神田川』や『妹よ』の大ヒットでおなじみのかぐや姫の印象が強いが、
僕はかぐや姫の歌は辛気くさくてあまり好きではなかった。
資生堂のCMソングにもなった『夢一夜』がヒットしたのは、
たしか中1の冬だったが、この曲も別にいいとは思わなかった。
のに、この曲も収録されているLP“こんな静かな夜”を
人生において2回も買ったのには理由がある。
そもそも僕がこのLPを欲しいと思ったのは、
中2の夏にたしか静岡県つま恋で行われた音楽イベントの模様が
NHKで放映されたのがきっかけであった。
このイベントには南こうせつも出ていて、
そこで『オハイオの月』という曲を唄っていた。
そしてすぐにこの曲が大好きになったのである。
僕はこの1曲をもう一度聴きたいがために、
わざわざおこづかいをためてこのLPを買った。
『オハイオの月』は結婚してアメリカに渡った元恋人のことを思いながら、
「コロラド アリゾナ オクラホマ
テネシー ルイジア そしてオハイオ 旅に来て見上げる月
君も見てるかい」(作詞・岡本おさみ)と唄っている。
当時の僕はオハイオ州がアメリカのどこにあるかなんて知らなかった。
でも、アメリカで月を見上げるというのが、
なんともスケールの大きな話のような気がして、
僕もいつかはアメリカで月を見上げてみたいと思ったものだ。
『オハイオの月』の3番目の歌詞はこうである。
懐かしいな君の2年ぶりの手紙が届く
女の子が生まれたなんて
夫の仕事で大陸を転々としているのかい
ああ島国じゃさすらうことさえも
ままならぬばかりさ
この「島国じゃさすらうことさえも ままならぬばかりさ」というフレーズが、
自称ボヘミアンの僕は昔から好きで、折にふれてよく想い出していたものだ。
そしてたまたま先週の土曜日、このLPを見つけたのだ。
『オハイオの月』はA面の1曲目である。
針を下ろした瞬間、懐かしいギターのイントロが聴こえてきた。
ずっと大好きな曲ではあったが、こうして聴くのは20数年ぶりである。
この曲をテレビではじめて聴いた中学2年生の少年は、
41歳の厄年男になった。
あいかわらず島国のなかで、
さすらうこともままならぬ生活を送っているが、
『オハイオの月』を聴いているうちに
気持ちだけはいいようのない開放感を覚えた。
キザな表現を使わせていただければ、
このレコードは中学2年生当時の僕から届いたプレゼントのように思えた。